
一昨日の午後である。
午後はいつも眠い。
私は、「大丈夫かな?」と危惧しながら、夢うつつで仕事をしていた。
そこに、一通のメールがきた。
不動産屋からのものだったので、
おそらく三日後に予定していた建物調査の件だな、と思い開いたら、
「残念ながら、この週末に売主が考えを変え、
売買契約を撤回し、他の買い手と話を進めることにしました。」
というメールだった。
・・・。
眠気はふっとんだ。
だけどやっぱり仕事どころの話じゃない。
何故・・・・。
どうして・・・。
どうなってるの・・・。
そんな言葉が頭を駆け巡り、席を立ったり座ったり。
何しろ、まだサインこそしていなかったものの、
契約書自体は送られてきており、お互いに同意は成立していたのだ。
私は建物調査を依頼し、
ローンを申請し、
不動産評価を依頼し、
公証人を紹介してくれるよう銀行に頼んでいた。
一週間後に契約書にサインすれば、
セットアップしたすべてがカチッとオンになり、
引っ越しに向けて動き出すはずだった。
メールは英文だったから、
もしかしたら私の頭が仕事をし過ぎてバカになっているのかもしれないと思い、
コピーペーストしてZorokuに逐語訳してもらった。
やっぱり「残念ながら」と書いてある。
念のためにZorokuに聞いてみた。
「これはどういう事ですか」
するとZorokuは言った。
「これは正式な契約キャンセルの通知です。
落選です。」
ええっ。
一対一で話をしていると思っていたのに、
まだ選抜やってたの?
何でもね、私が建物調査をしないと契約書にサインしない、と言ったことが、
売り手側の逆鱗に触れたらしい。
建物調査のせいで予定が少し長引いたことも。
それから、キッチンが古くて若干いかれていて、
古い冷蔵庫や洗濯機などの残置物もあったから、
これを片付けて欲しいと言った事も良くなかったみたい。
売り手としては、何もしないでそのまま出て行きたかったのに、
面倒くさいな、この人。
みたいな感じになっちゃったみたい。
いやー、Zorokuがね。
Zorokuが、物件が古いから気をつけろ、気をつけろって言うから。
油断すると、してやられるぞって彼が言ったもんだから。
とりあえず考え直してほしい旨のメールを懇願テイストで書いた。
弟はよく私のことを、
「プライド高いよね(笑)」と笑うけれど、
こういう短期的なつきあいにおける私のプライドはラウンジテーブルくらいの高さである。
夜になって、当然だがまだ返事は来ない。
建物調査は二日後である。
早くキャンセルしないとキャンセル料が発生するかもしれない。
いや、もう発生しているかもしれない。
ローン申請も始まっている。こちらのキャンセル料も発生するかもしれない。
銀行が手配した不動産鑑定評価を行う会社からもメールが来ていた。
これはまったくの無駄になるが、キャンセルできないかもしれない。
普段の私なら、何でも「ま、いいや」とすぐに諦めるが、
不動産関係はすべてが何百ユーロ、何千ユーロの話である。
キャンセル料も多額になる可能性がある。
私はもう一度メールを書いた。
キッチンはもうそのままでいい。
建物検査はいずれにせよ必要だが、日程を伸ばす必要はない。
本当に買いたいと思っている。
お願い、お願い。お願いよ。
みたいな感じでね。
翌日になっても返事がないので、
不動産屋に電話をかけた。
「うーん、ちょっと聞いてみるね」とのことだったので、
その間に建物調査の会社に電話をかけて、
調査をキャンセルできるかどうか聞いた。
一時間以内にキャンセル通知をしないとキャンセル料100%だという。
これには少し心が明るくなった。
つまり、一時間以内にキャンセルすれば、無料なのだ。
もう一度不動産屋に電話をかけて、
すぐに返事をくれと言った。
彼はまだ売主に確認を取っていなかった。
「うーん、まあ、もう一度彼女に連絡して聞いてみるよ・・・。」と言った。
45分待ったが連絡がないので、
もう一度電話したら、ものすごく気の毒そうに、
「残念ながら・・・」
と言った。
つまり、この話は正式に流れたのである。
そこからの私は急に有能になり、
あれもキャンセル、これもキャンセル、
至るところに連絡を取りまくって、関係各社の動きを止めていった。
この迅速な働きのおかげで、さいわいキャンセル料はどこにも発生しなかった。
横でこのありさまを見物していた同僚たちを含め、
建物調査会社や不動産鑑定会社、銀行などなど、
さまざまな人々から同情の言葉を頂き、
にわかに生き返ったような気持となった。
仕事の手をいったん止めたから、
仕事に戻ったら堰き止められていた仕事が溢れ、
午後は大変忙しくなり、私は飛び回るようにして働いた。
そうして、途中でトイレに行って、ふと鏡で自分を見てみたら、
顔がキラキラと輝いているのが我ながら意外だった。
そして、一日走るように働いて、
自転車で家に帰ったのだが、
家の鏡で顔を見たら、今度はゾンビみたいな顔をしていた。
大変老けて、50才くらいに見える。
まあ、50才になるまであと2年しかないから、
50才に見えても何の不思議もないのだけれど。
これが家を買えなくなったからなのか、
それとも猛烈に仕事をしたからなのか、
もうどちらともわからない。
とにかく寝た。
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