2025年6月15日日曜日

メスメリカな一日


私はデン・ハーグにあるOmniversum Museumが大好き。

ミュージアムというより映画館なのだが、上映されているのは普通の映画ではない。
プラネタリウムのような丸天井のスクリーンがあって、
とにかく視界すべてをスクリーン映像が覆い尽くすものだから、
身体がまるでその世界のなかにいるような感じになるのだ。

昨年の冬に、私はピンク・フロイドの「Dark side of the Moon」という有名なアルバムをベースにしてつくられた映像をここで観て、あまりに良かったから人を誘ってもう一度観て、それでも飽き足らずにもう一度一人で行った。
それ以来、このドーム型映画館のファンである。

日曜日にはそのOmniversumに「Mesmerica」を観にいって来た。

アメリカのビジュアルアーティスト兼音楽家 James Hood(ジェームズ・フッド) によって制作された没入型オーディオビジュアル体験ショーだという。


ヒーリング音楽と共に、目の前に圧倒的なデジタルイメージが展開していく。
終わった後もしばらく目がクラクラしていて、
そのくせ頭は妙に覚醒していて、
身体には映像のスピード感が残っており、
しばらく別世界にいた余韻があった。
終わってしまったのが残念だった。
一生観ていられるなと思った。

薬物中毒になりそうな人は、ハーグに住んだらいいんじゃないかしら。
身体にもお財布にも優しく、
だいたい同じような世界を愉しめるのではないかと推測する。
薬物とOmniverusumのチケットだったら、どっちが高いのかしら。
「Mestarica」は結構高くて、27ユーロくらい。

もう一度観られないかしら、と思ってウェブサイトを観てみたけれど、
残念ながら完売していた。
そりゃそうだよなと思った。
次にもう一度機会があったらまた行くと思う。

もし職場への距離や家賃の驚異的な高さが問題にならないのだったら、
私はOmniversumの近くに住んで、毎週末行くかもしれない。

帰り道、オムニヴェルサムから出て、二、三の人の歩く後ろについていったら、
裏道があった。
時刻は六時半くらいだったけれど、まだ昼間のように明るくて、
少しベンチに座ったら人はすぐいなくなって、
静かでね。
夏日といえど夕方には日の光も強くなくて、
身体にまだ残っている「メスメリカ」の余韻を愉しみながら、しばらく本を読んだ。
読んでいた本は司馬遼太郎「人斬り以蔵」。
メスメリカの極彩色の曼荼羅感覚に至極冷静な司馬遼太郎が織り込まれていって、
それはそれで頭がクラクラしましたよ。

帰りの町中は赤い服の人でいっぱいだった。
どうしてこんなに赤い服の人ばっかりなんだろうね、と蔵六に聞いたら、
『Rode Lijn』というガザで起こっていることにたいする抗議デモだと教えてくれた。
トラムに乗ったら、通路を隔てた向かいにパレスチナ人らしき家族が座った。
3人の子供と母親と父親がいて、
子供は赤いワンピースやTシャツ、お母さんは赤いヒジャブ、
お父さんは赤い模様の入った民族服のようなものを着ていた。
一番小さな3つくらいの女の子が手作りのカンバスを抱きしめ、
お母さんが取り上げようとしてもどうしても離そうとしない。
そのうち、そのカンバスを振り上げて、
「ダァ、ドゥ、ダァ!ダァ、ドゥ、ダァ!」
自己流のシュプレヒコールをあげはじめた。
それがまあ可愛らしくてね。

カンバスの表側は鮮やかな赤と緑と白のパレスチナの国旗、
裏側には「STOP GENOCIDE」と書かれていた。
彼らは家族総出で虐殺を食い止めにきたのである。

もし私がこの家族の一員だったら、
ずっと後になるまで、思い出話をするだろうな。
あの平和で美しい日に、
私たちは家族そろって赤い服を着て、
非人間性に抗議するデモをしたね、と。

平和で美しい日だった。

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